生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:平成18年10月28日
 
 

成人の大学入学に対する阻害要因 (せいじんのだいがくにゅうがくにたいするそがいよういん)

deterrents to adult entry to universities and colleges
キーワード : 社会人入学社会人学生高等教育阻害要因
出相泰裕(であいやすひろ)
1.成人の大学入学に対する阻害要因
   
 
 
 
   生涯学習社会を実感あるものとしていくためには、様々な人々が人生の様々な時期に様々な目的で、大学等に入学できる環境を作りだしていく必要がある。しかしながら、社会人特別選抜制度などの導入にも関わらず、社会人入学者数は伸び悩んでおり、特に学士課程段階においては平成10(1998)年以降減少傾向にある。そのため,伝統的学生である若年人口からの志願者数の減少に直面し,社会人学生の受け入れで定員を確保しようと考えた大学はいっそう危機的な状況に陥っている。
 そのような状況から、大学側も今や単に志願者を待っているのではなく、自ら入学希望者を掘り起こしていくとともに、希望者が実際に志願に至るように働きかけていく必要が生じている。そのためには人々、特に高度な学習ニーズを持った人々がどのような理由、阻害要因から大学入学を志願するに至っていないのかについて理解することが重要となる。
 学習機会に参加するうえでの阻害要因に関しては、クロスあるいはダーケンワールドらの分類が多くの文献で参照されている。クロスは阻害要因を制度的、状況的、気質的の3つに分類した。制度的要因とは不十分な経済支援施策、成人には厳しい入学要件、機関による情報提供不足など、教育機関側の対応が生み出す障害である。状況的要因とは家庭や社会など取り巻く環境が生み出す要因で、家族の無理解、保育システムの欠如、労働時間の長さなどがあてはまる。気質的要因は本人自身の心理的な問題で、学習能力への自信の欠如、学習や教育の価値への否定的な態度などが挙げられる。
 一方、ダーケンワ−ルドとメリアムは阻害要因を4つに分類した。状況的阻害要因、制度的阻害要因はクロスのそれと同様であるが、新たに情報的阻害要因と心理社会的阻害要因を加えた。情報的阻害要因は機関側の情報提供の失敗といった面に加え、成人側の情報取得あるいは活用の失敗といった気質的な要素も含んだ概念である。心理社会的阻害要因は気質的阻害要因と類似しているが、教育に対する態度形成に社会的効力や周囲の人間が影響を与える点をいっそう考慮に入れたものである。
 大学への入学に関わる阻害要因研究はまだ十分な蓄積がなされていない分野であるが、学習機会一般と同様の阻害要因が働いていると考えられる。これまでの研究で「忙しくて時間がない」などの状況的要因が特に認知度が高くなっており、制度的要因や気質的な要因は比較的認知度は低くなっている。
 これらの要因は属性によって認知度に差が見られ、例えば、時間の問題は特に30歳代で、家庭の問題は主婦、気質的な要因は高齢者や低学歴者において高くなる傾向が見られている。また入学を希望しない人々の中にも、大学教育を享受するに十分な能力を持ちながら、自信のなさや大学教育を縁遠く感じるなどの気質的な要因から、希望しない人も見られる。教育機会の均等といった面から、このような人々にいかにアプローチをするかも重要な課題となっている。
 このような阻害要因を、今後、成人の人生の再出発や学び直しが可能な社会を構築していくために、社会全体で軽減していく必要がある。
 
 
 
  参考文献
・出相泰裕「成人の大学等への入学に対する阻害要因に関する一考察―大阪市における女性講座受講者に対する調査から―」『日本生涯教育学会年報』第26号、2005年、149−165.
・Cross,K.P,Adults as Learners:Increasing Participation and Facilitating Learning, Jossey-Bass Publishers,1981.


 
 
 
 
   



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