生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:平成19年12月26日
 
 

映画教育と生涯学習 (えいがきょういくとしょうがいがくしゅう)

screen education and lifelong learning
キーワード : 映画教育芸術教育映画鑑賞教育映像コンテンツ市民映画鑑賞会
市川昌(いちかわあきら)
1.映画と生涯学習
  
 
 
 
   映画というメディア媒体が、子供から大人にいたるまで人間形成に大きな影響力を持ち、道徳的に悪影響をもたらすという禁止論とともに、教育活動の補助教材として効果的であることは映画産業が発展した20世紀初めから理解されていた。日本における映画教育論は、戦前から映像の刺激が強すぎるので映画の悪影響から子供たちを守るべきだという消極論と、映像特性を生かしたメディア教育で科学や地理歴史などの教材として価値があるという積極論の2方向の議論が行われてきた。特に第二次世界大戦以前の明治、大正、昭和の初め頃まで、現在の生涯学習にあたる社会教育は、通俗教育といわれていた。この通俗教育を指導していた文部省普通学務局は、大正7年(1918)に「教育と活動写真」の関連について、ジゴマというフランス輸入の盗賊映画に児童が悪影響を受けたという映画有害論を支持しつつも、地理歴史分野や理科科学教育分野での教育映画の可能性を指摘している。第二次世界大戦中には都市だけでなく農村、漁村でも小中学校の講堂や夜間の校庭において、移動映写機材による文部省推薦優良映画鑑賞会が行われ、中国大陸で奮戦する陸海軍の将兵たちを撮影したニュース映画とともに、優秀映画が上映されて、国威発揚とともに、国民文化の向上に資する目的であった。
 戦後は昭和23年から社会教育メディア全国の社会教育施設や公民館において民主主義思想の徹底のためCIE映画やナトコ映画機材の普及が、その後の地域の視聴覚教育ライブラリーの発展の契機となった。また家庭内のテレビ視聴の普及が進む前の昭和30年代までは、戦後の地域における映画館などを借りて実施された市民映画鑑賞会が盛んに実施された。市民映画鑑賞会を主催したのは学校の父母を中心としたPTAや、企業の厚生部や労働組合、地域の文化人グループによる文化活動であった。市民映画鑑賞会では、映画上映による廉価な鑑賞サービスだけでなく、映画紹介などの上映前の映画情報に関する事前教育や、上映後のアンケート調査、独立制作プロダクションのための募金のほか鑑賞効果の測定、感想文集の発行、場所によっては事後の感想発表会などが積極的に実施された。
 社会教育や生涯学習のための映画教育理論研究の先駆者として、関野嘉雄、鈴木喜代松、波多野完治、有光成徳、大内茂男、高桑康雄など教育映画理論は、教育のための映像コンテンツの質的向上に大きな影響力を持った。映画教育はテレビによる娯楽、教育教養番組の発展により、一時は社会教育活動として下火となり映画産業も衰微したが、最近になってテレビの俗悪番組や質的に軽薄な番組制作が批判され、再び芸術性の高い映画を利用した生涯学習が復活しつつある。
 劇場などによる大型スクリーンによる映画鑑賞の魅力は、テレビなどの小型画面と違う感動を視聴者にもたらし、映像鑑賞後の生涯学習サークルにおける感想発表や、鑑賞後の討論の質的な深みを増している。文化庁優秀映画鑑賞推進事業は、近代美術館フイルムセンターと協力して、北海道の生涯学習総合センターから東京の江東区亀戸文化センター、埼玉県の所沢市民文化センターなど多数の生涯学習センター、さらに南は沖縄まですべての地域自治体の公的生涯学習施設で優秀映画上映を実施している。平成19年度は成瀬巳喜男監督特集として「めし」「おかあさん」「浮雲」などを上映し地域市民の生涯学習として極めて好評であった。映画教育と生涯学習は、高齢者の学習者の増加が予想される現代の生涯教育機関では、今後とも極めて有効な生涯学習方法であると考えられる。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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