生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:平成25年3月2日
 
 

答志島の藻場再生活動と地域の教育力 (とうしじまのもばさいせいかつどうとちいきのきょういくりょく)

キーワード : 官民連携学社融合体験学習地域の教育力
内山淳子(うちやまじゅんこ)
1.海洋資源保護にむけた官民連携・学社融合による活動
  
 
 
 
  【答志地区の文化背景】
 三重県鳥羽市の答志地区には、中学卒業後の同年の長男が10年にわたり近隣の寝屋親の家に泊まる「若者宿(寝屋子)」の風習という文化的背景がある。寝屋子とは、青年宿自体とその宿に泊まる青年をもさし、かつては厳しく躾が行われたとされる。近年は島外へ通学・就職する者の増加に伴い青年らが寝屋子に泊まる機会は少なくなっているが、自らも寝屋子の経験をもつ地域の大人は寝屋親を引き受け、寝屋子制度は存続している。成人後に島外で暮らす人々も盆や正月に帰省した折には寝屋子に集まり、擬制親子関係である寝屋親と寝屋子、兄弟関係である寝屋子朋輩は生涯変わらぬ親交をもつ。
 答志地区では寝屋子に入る年齢の青年による青年団活動も続いている。海の安全と大漁を祈願する年中行事「神祭」の執行は青年の誇りであり、青年団が地域から期待される社会的役割でもある。しかし、青年の人数が減少した2000年代半ばからは青年団単独での活動が困難になり、当地の年齢階梯において青年団卒団後の年齢にあたる漁協青壮年部員の応援を得て行われている。答志地区で近年始められた官民連携による藻場再生活動はこのような文化背景にもとづく人々のネットワークのなかで、地域の課題に対応する新たな組織的活動として進行してきた。
【官民連携・学社融合による地域課題への取り組み―藻場再生活動】
 答志では、2010(平成22)年から、行政の専門機関である鳥羽市水産研究所、若手漁業者で構成される鳥羽磯部漁業協同組合答志支所青壮年部、答志中学校による学社融合事業として「藻場再生活動」が行われている。中学3年生は「総合的な学習の時間」の一環としてこの活動に参加している。
 「藻場」とは稚貝や稚魚の住処やえさとなる海藻が繁茂する岩礁地帯をいい、海洋保全と沿岸漁業にとり重要な資源である。近年全国的に海藻の消失現象―磯焼け―が広がり、答志でもアワビが生息するアラメの減少が著しく磯根漁業の衰退が危惧されている。「藻場再生活動」は、その対策として海底に海藻繁殖の核となる藻場を人為的に造成しようとする活動である。
 藻場や干潟など海洋資源の保護・維持は持続可能な社会に資する公共的課題であるとして、水産庁は2007(平成19)年度に「磯焼け対策ガイドライン」を作成し各地の自治体や漁業者による藻場造成活動を推進している。答志の藻場造成は2005(平成17)年から5年にわたる漁業者との協働が評価され、2009(平成21)年度の農林水産祭天皇杯を受賞した。2010(平成22)年度からは水産庁「環境・生態系保全活動支援推進事業」の補助事業に指定されている。
 答志の藻場再生活動の特徴は、コンクリートなどの人工物を用いず、自然界にある岩石と木片を使い人の手で海藻を増やしていく自然工法にある。造成後も海底になじみ潮の流れを変える恐れのない工法は、鳥羽市水産研究所において1990年代から研究開発が続けられてきた。この研究成果に2005(平成17)年からは漁業者が実働ダイバーとして協力し、2010(平成22)年からは中学生も参加している。官民連携による学社融合の活動は、地域の課題を共有する場となっていった。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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